久しぶりの更新となりますが、今後ともみなさんどうぞよろしくお願いします。
5月9日から5月13日までモロッコのマラケシュで開催された27th Annual Meeting of Polymer Processing Society (PPS27)に参加しました。モロッコには成形加工のコミュニティーがあるわけではないので、今回はカナダでの修行を終えて郷里に戻ったBousmina教授が、故郷で錦の御旗を掲げる的な印象を受けたりもしました。彼は、モロッコではミスターサイエンスと呼ばれているそうです。Bousmina教授は会場の隅々に気を配り円滑な会場運営を支えておられました。
マラケシュまでは、日本からの直行便が無く関西国際空港からエミレーツ航空でドバイ経由でカサブランカまで行き、そこからロイヤルエアーモロッコでマラケシュまで移動しました。合計20時間以上の長旅でした。関西国際空港-ドバイ間は、搭乗率が70%と両サイドの席が空いていたのでゆったりと過ごすことができました。ところがドバイ-カサブランカはほぼ満席であり窮屈な機内での9時間近いフライトはかなり堪えました。カサブランカ-マラケシュ間は飛行時間が40分程度なのであっという間のフライトでした。カサブランカ-マラケシュは飛行機以外に、鉄道で5時間、タクシーで3時間というルートで来た方もいました。カサブランカまではヨーロッパ経由で来る場合は経由地で一泊というルートもありました。
モロッコはフランス語とアラビア語が通じますが、英語もそこそこ通じます。だいたい最初はフランス語で話しかけられます。また、やたらと客引きが多く最初のうちは往生しましたが、対応の仕方になれると特に気にならなくなりました。
会議はホテルマンスールアブダビに隣接した大きな会議場で行われました。前日の5月9日のウエルカムパーティーは参加できませんでしたが、5月10日からの会議は予定通り参加することができた。今回は直前のテロなどの影響で直前のキャンセルがとても多く、開催当日までプログラムが確定していなかったようでした。私の発表は、日本を発つ前にプログラムを確認したところ自分の発表がプログラムから無くなっており、あわてて実行委員会に連絡し二日目の午後にプログラムに入れてもらいました。しかし、初日(5月10日)にプログラムを確認してみると、自分の発表が初日の午後に登録されており、またまた慌てて準備をした次第です。
初日のプレナリー(基調講演)はオランダのマイヤー先生がレオロジーと成形加工について、主に構成方程式による解析を発表されていました。マイヤー先生の発表は成形加工のイントロとしての位置づけがあるためか、ご発表はいつも同じような内容なのですが、いつも基本を思い起こさせてもらえて勉強になります。ポリスチレンなどの常温で脆性なポリマーをローラーに通して圧延すると延性が生じるというビデオが今回も気になりました。ローラーを通した試料を発泡させるとどうなるのだろうか?
発泡セッションのキーノートはRMITのSati Bhattacharya先生でした。ナノコンの発泡のお話をされていましたがあまり研究は進んでいないようです。ナノコンを入れるとガスの溶解度が下がる理由をポリマーがナノクレーにインターカレートされるからだと述べられていましたがほんとなのでしょうか。そのあとの一般講演は材料や条件を変えて発泡させ力学強度などを測定したという発表ばかりでした。発泡現象のメカニズムに迫るようなものは無かったです。
午後からは、同じ研究室の博士後期課程1年(D1)のラヒダさんがキーノートをされました。D1でキーノートに推薦されるというのはとてもすばらしいことで、彼女の日頃の地道な研究が認められたといってもいいでしょう。講演タイトルは、CO2 induced reinforcement of mechanical property in Polyolefin based nanocellular foams(ポリオレフィン系ナノセルラーフォームの二酸化炭素により誘起された力学的性質の強化)です。発表内容もよく整理されており、よどみなく時間内にきっちり終わるように発表していました。二酸化炭素によるポリマーの結晶化が材料強度の向上につながり、強いては発泡前の材料よりも材料強度が向上する場合があるという内容です。発泡させれば強度が落ちるというのは当たり前と思っていましたが、二酸化炭素の威力には驚かされます。質問は、材料のタクシティーについて、発泡体の密度について、結晶化が進行しているのに脆性が表れずに延性があるのはなぜかという内容でした。
私の発表はラヒダさんの2件後に行いました。タイトルは、Production of porous polymeric films with unimodal or bimodal pore-size distributions via depressurization- and photopolymerization-induced bubble nucleation in low-viscosity UV-curable monomer/high-pressure CO2 solutions(低粘度紫外線硬化樹脂と高圧に酸化炭素溶液中での減圧誘起と光重合誘起の核生成による単分散・二様分布の多孔フィルムの製造)です。紫外線硬化樹脂のきわめて速い重合を利用した気泡成長の停止を実験と理論により説明したあと、減圧発泡と光誘起重合発泡を組み合わせて発泡を2回起こさせることで二様分布の発泡フィルムを作成するという研究です。
質問内容は、理論解析で臨界核からの気泡成長シミュレーションを行っているが、臨界核の大きさがシミュレーション結果に影響を及ぼすのではないかという質問でした。まさしくその通りで、臨界核をいかにして規定するかが今後の課題です。他には、どのような応用が考えられるかということで、メタマテリアルとしての応用を考えていると述べました。また、パク先生からはシミュレーションに用いた紫外線硬化樹脂の粘度変化の実験結果をフィッティングする式を詳しく教えて欲しいと言われました。
発泡セッションの最後のキーノートは、Alstadt先生のPEIなどの熱可塑性材料を使用したプリント基板材料の開発でした。もっぱらリジット基板の低誘電率化を狙っているようでした。他にも無機材料を混ぜてコンポジットとすることも取り組んでおられました。既に基板ができているようで、実用化に近い研究をされていました。発泡で基板材料を作る研究は、孔径も大きく、正直どうかな?とおもところもありますが、押出発泡で発泡シートを作って回路を描いているのは感心しました。
海外の学会に行くと毎回悩みの種の一つが、食事です。今回は、朝はホテル代に、昼は学会費に含まれていました。夜は各自でということでしたが、マラケシュで一番有名な観光地のメディナの屋台に行くことにしました。詳しくは、その2でご紹介します。
今回のPPSはナノコンポジットに関する研究が4日間2会場で並行して発表されました。
多くのPPSのメンバーにとってナノコンポジットは応用範囲の広い魅力的な材料であり、研究対象として人気があるようです。そのなかでも岡本先生の基調講演は今後のナノコンポジットの研究を指し示すべく大変勉強になるご講演でした。特に、ナノコンポジットの剥離の解析が興味深かったです。
また、発泡関係ではパク先生が一人気を吐いておられました。高圧ガス中の一軸延伸下での発泡の可視化など、メカニカルエンジニアであるパク先生ならではのご研究を発表されていました。一軸延伸だけでなく、剪断の可視化装置も完成されており、先生の強みを生かした魅力的なご発表でした。
岡本先生もパク先生もランブラアワード受賞者ですが、このように学会の重要な賞を受賞した先生方がPPSを引張っていてくれていることがこの学会のいいところだなと改めて思いました。今年の受賞者は、レオメータにつけられる伸長粘度の測定装置を開発された方でした。これまでのESRやEVFとは異なり、山形大学の小山先生が開発された方式をレオメータに取り付けられるように小型化したようでした。PCの調子が悪く動画が見られなかったのが残念でした。
5月9日から5月13日までモロッコのマラケシュで開催された27th Annual Meeting of Polymer Processing Society (PPS27)に参加しました。モロッコには成形加工のコミュニティーがあるわけではないので、今回はカナダでの修行を終えて郷里に戻ったBousmina教授が、故郷で錦の御旗を掲げる的な印象を受けたりもしました。彼は、モロッコではミスターサイエンスと呼ばれているそうです。Bousmina教授は会場の隅々に気を配り円滑な会場運営を支えておられました。
マラケシュまでは、日本からの直行便が無く関西国際空港からエミレーツ航空でドバイ経由でカサブランカまで行き、そこからロイヤルエアーモロッコでマラケシュまで移動しました。合計20時間以上の長旅でした。関西国際空港-ドバイ間は、搭乗率が70%と両サイドの席が空いていたのでゆったりと過ごすことができました。ところがドバイ-カサブランカはほぼ満席であり窮屈な機内での9時間近いフライトはかなり堪えました。カサブランカ-マラケシュ間は飛行時間が40分程度なのであっという間のフライトでした。カサブランカ-マラケシュは飛行機以外に、鉄道で5時間、タクシーで3時間というルートで来た方もいました。カサブランカまではヨーロッパ経由で来る場合は経由地で一泊というルートもありました。
カサブランカ空港から望む風景
モロッコはフランス語とアラビア語が通じますが、英語もそこそこ通じます。だいたい最初はフランス語で話しかけられます。また、やたらと客引きが多く最初のうちは往生しましたが、対応の仕方になれると特に気にならなくなりました。
カサブランカ空港の案内標識(まともにわかるのは、図とBoardingのみ)
会議はホテルマンスールアブダビに隣接した大きな会議場で行われました。前日の5月9日のウエルカムパーティーは参加できませんでしたが、5月10日からの会議は予定通り参加することができた。今回は直前のテロなどの影響で直前のキャンセルがとても多く、開催当日までプログラムが確定していなかったようでした。私の発表は、日本を発つ前にプログラムを確認したところ自分の発表がプログラムから無くなっており、あわてて実行委員会に連絡し二日目の午後にプログラムに入れてもらいました。しかし、初日(5月10日)にプログラムを確認してみると、自分の発表が初日の午後に登録されており、またまた慌てて準備をした次第です。
会場のホテル
みずみずしいオレンジの木
初日のプレナリー(基調講演)はオランダのマイヤー先生がレオロジーと成形加工について、主に構成方程式による解析を発表されていました。マイヤー先生の発表は成形加工のイントロとしての位置づけがあるためか、ご発表はいつも同じような内容なのですが、いつも基本を思い起こさせてもらえて勉強になります。ポリスチレンなどの常温で脆性なポリマーをローラーに通して圧延すると延性が生じるというビデオが今回も気になりました。ローラーを通した試料を発泡させるとどうなるのだろうか?
発泡セッションのキーノートはRMITのSati Bhattacharya先生でした。ナノコンの発泡のお話をされていましたがあまり研究は進んでいないようです。ナノコンを入れるとガスの溶解度が下がる理由をポリマーがナノクレーにインターカレートされるからだと述べられていましたがほんとなのでしょうか。そのあとの一般講演は材料や条件を変えて発泡させ力学強度などを測定したという発表ばかりでした。発泡現象のメカニズムに迫るようなものは無かったです。
午後からは、同じ研究室の博士後期課程1年(D1)のラヒダさんがキーノートをされました。D1でキーノートに推薦されるというのはとてもすばらしいことで、彼女の日頃の地道な研究が認められたといってもいいでしょう。講演タイトルは、CO2 induced reinforcement of mechanical property in Polyolefin based nanocellular foams(ポリオレフィン系ナノセルラーフォームの二酸化炭素により誘起された力学的性質の強化)です。発表内容もよく整理されており、よどみなく時間内にきっちり終わるように発表していました。二酸化炭素によるポリマーの結晶化が材料強度の向上につながり、強いては発泡前の材料よりも材料強度が向上する場合があるという内容です。発泡させれば強度が落ちるというのは当たり前と思っていましたが、二酸化炭素の威力には驚かされます。質問は、材料のタクシティーについて、発泡体の密度について、結晶化が進行しているのに脆性が表れずに延性があるのはなぜかという内容でした。
私の発表はラヒダさんの2件後に行いました。タイトルは、Production of porous polymeric films with unimodal or bimodal pore-size distributions via depressurization- and photopolymerization-induced bubble nucleation in low-viscosity UV-curable monomer/high-pressure CO2 solutions(低粘度紫外線硬化樹脂と高圧に酸化炭素溶液中での減圧誘起と光重合誘起の核生成による単分散・二様分布の多孔フィルムの製造)です。紫外線硬化樹脂のきわめて速い重合を利用した気泡成長の停止を実験と理論により説明したあと、減圧発泡と光誘起重合発泡を組み合わせて発泡を2回起こさせることで二様分布の発泡フィルムを作成するという研究です。
質問内容は、理論解析で臨界核からの気泡成長シミュレーションを行っているが、臨界核の大きさがシミュレーション結果に影響を及ぼすのではないかという質問でした。まさしくその通りで、臨界核をいかにして規定するかが今後の課題です。他には、どのような応用が考えられるかということで、メタマテリアルとしての応用を考えていると述べました。また、パク先生からはシミュレーションに用いた紫外線硬化樹脂の粘度変化の実験結果をフィッティングする式を詳しく教えて欲しいと言われました。
発泡セッションの最後のキーノートは、Alstadt先生のPEIなどの熱可塑性材料を使用したプリント基板材料の開発でした。もっぱらリジット基板の低誘電率化を狙っているようでした。他にも無機材料を混ぜてコンポジットとすることも取り組んでおられました。既に基板ができているようで、実用化に近い研究をされていました。発泡で基板材料を作る研究は、孔径も大きく、正直どうかな?とおもところもありますが、押出発泡で発泡シートを作って回路を描いているのは感心しました。
海外の学会に行くと毎回悩みの種の一つが、食事です。今回は、朝はホテル代に、昼は学会費に含まれていました。夜は各自でということでしたが、マラケシュで一番有名な観光地のメディナの屋台に行くことにしました。詳しくは、その2でご紹介します。
今回のPPSはナノコンポジットに関する研究が4日間2会場で並行して発表されました。
多くのPPSのメンバーにとってナノコンポジットは応用範囲の広い魅力的な材料であり、研究対象として人気があるようです。そのなかでも岡本先生の基調講演は今後のナノコンポジットの研究を指し示すべく大変勉強になるご講演でした。特に、ナノコンポジットの剥離の解析が興味深かったです。
また、発泡関係ではパク先生が一人気を吐いておられました。高圧ガス中の一軸延伸下での発泡の可視化など、メカニカルエンジニアであるパク先生ならではのご研究を発表されていました。一軸延伸だけでなく、剪断の可視化装置も完成されており、先生の強みを生かした魅力的なご発表でした。
岡本先生もパク先生もランブラアワード受賞者ですが、このように学会の重要な賞を受賞した先生方がPPSを引張っていてくれていることがこの学会のいいところだなと改めて思いました。今年の受賞者は、レオメータにつけられる伸長粘度の測定装置を開発された方でした。これまでのESRやEVFとは異なり、山形大学の小山先生が開発された方式をレオメータに取り付けられるように小型化したようでした。PCの調子が悪く動画が見られなかったのが残念でした。