2018/08/29

新井紀子著「AI vs 教科書が読めない子供たち」


読解力

最近は,メールやらSNSばかり読んでいるので,書く力や読む力が衰えているなと,感じていて,以前よりも読書をしようと心がけています。

Amazon Kindleを使って電子書籍になったものを新幹線での移動中や就寝前に読んでいます。Kindleの良いところは何冊もの本を論文とともに持ち歩けるところだけれど,「この本面白いから読んでみな。」と人にあげることができないので,半径3m以内で,感動を共有しにくい,かなと思っています。

私は読む速度が遅いので,読書はかなり苦痛なのだけれど,久しぶりに夢中になって読んで,昨日読み終えた本が,新井紀子著「AI vs 教科書が読めない子供たち」でした。内容は,Amazonのレビューとかを参考にしてもらえれば,良いと思います。昔から読書感想文は苦手で,ようやくや内容説明をするほどの能力はありません。

この本はなにが面白いって,学者が自分に向けた本質的な疑問に真正面から向き合い,周りを巻き込み,研究PJを推進し,ついには社会に役に立つ研究にたどり着いているというところです。

法学部出身で,海外の大学院で数学の学位を取られたという文理融合の経歴を持たれている著者ならではの,文章を読んで,意味が分かる,意味を伝える,ということの本質と,日本人の読解力の現状とAI技術の台頭による雇用や社会不安への見通しなど,世の中の役に立つ研究を一から立ち上げるということはどういうことなのかを考えさせられる本でした。

作中で著者にはお子さんがいらっしゃるということで,母親としての母性を感じられるところも随所にあり,不肖(と称されていましたが)東ロボ君の開発と子育てがリンクしていました。AIは数学なのだから,数学で表現できない人間の活動はAIに代替されない。シンギュラリティ―は来ない。しかし,当の人間の能力がAI並みに落ちているという指摘はとてもインパクトがありました。うすうすわかっていたけれど,データで示されて納得してしまいました。

私は,大学の要請で,移動現象論基礎や流体力学などの講義科目で,数式を使って自然現象を理解させる講義を100%英語でしています。100%英語とは,板書,口頭での説明,教科書,テストの問題文などがすべて英語です。最近は,専門用語の日英対訳や講義時間の10分程度は日本語で復習しますが,講義全体を通じてほぼ英語です。大学の方針で,講義科目の50%は英語化しなくてはならず,みなさん努力されています。講義室に居る数人の留学生は理解しやすいようですが,他の学生は,学習があまり進まないようです。

大学生にとって,英語は大学入試の受験科目であり,英語ができること≒英語のテストの成績が良い,ということだと思います。しかし私の講義のように英語をツールとして,専門知識を学習する講義では,英語+専門書を読みこなす高度な読解力が求められます。教科書を読んで理解することを英語でやらないと,単位が取れません。専門科目ですので,日本語の読解力が低ければ,英語の平易な構文で書かれた内容も理解は難しいです。そこで,テスト前にテスト対策の特別講義を日本語でやることで,テストに解答できるようになり,2/3くらいの学生に単位を授与できるというわけです。では,それまでの講義は何だったんだ,とはなりません。上位10%くらいの学生は英語での講義をおおよそ理解しているようです。