2010/10/31

アドバンスト・メディア社長 鈴木清幸氏の講演

本日(2010/10/30)は私の所属する化学工学教室の同窓会(洛窓会)の総会、講演会、懇親会がありました。講演会では3人の方にお話いただきましたが、特に印象に残りましたアドバンスト・メディア社長の鈴木清幸氏のご講演について書きたいと思います。

講演題目 ソフトコミュニケーションの時代へ ~ 人中心のコミュニケーションの実現 ~

鈴木氏は人工知能による音声認識ソフトを開発販売する会社(http://www.advanced-media.co.jp/company/index.html)の社長をされている方です。

音声認識ソフトといえば、Microsoft WORDやWindows Vistaにも搭載されており、それほど珍しいものではないと思っていたのですが、アドバンスト・メディア社が開発しているAmiVoiceは事前にソフトに学習させる必要が無く、いきなり高い認識精度で音声をテキストに変換できるそうです。また、PCというキーボードやマウスが主体の入力デバイスが使えない、携帯電話や医療現場、工事現場などで端末に話しかけるだけで文章が作成できる状況を想定してシステムが作られています。

ご講演を拝聴していて面白いなと感じたところは、単なるソフトウェアベンダーではなく音声認識ソフトを核としたビジネスモデルを構築しているところです。

ビジネスモデルの中核にあるのは、人中心のソフトコミュニケーションという考え方で、人間の自然な動作によりコンピュータを操作しコンピュータに補助をさせるという考え方のようです。

アドバンスト・メディアのホームページにも同じ内容が紹介されていますが、音声認識ソフトを使って、議会の議事録を作成したり、保険のコールセンターの支援システムを作成したり、お医者さんのカルテや所見などを入力する補助をしたりするシステムが構築されています。それぞれの専門分野ごとに専門用語が異なるので、分野ごとに特化した辞書を用意することで変換効率を高めて実用化しているようです。お医者さんのシステムでは、お医者さんがこれまでキーボードに入力していたよりも早く入力できるようになり、残業が無くなり、より多くの患者さんを診察できるようになったとか。

保険のコールセンターの支援システムでは、コールセンターの人が正確な表現で保険の内容を説明しているかどうかを監視したり、契約の際は、言い忘れがないように、画面上にまだ説明していない内容が表示されていたり、お客様に住所や電話番号の入力を求めるときは、会話の内容がその部分に移った際に、会話の内容を音声認識ソフトが自動的に理解し、画面に表示するなどのデモを見せていただきました。

これからのビジネスターゲットは、医療・介護だそうです。介護従事者は介護保険ための膨大な書類作成があり、実際の介護以外の事務作業に忙殺されているようです。この作業を音声認識ソフトによる音声→テキストの変換と、変換されたテキストの人間による修正と、音声を発した人の承認により、介護従事者がキーボードをたたかなくても書類が作成できるシステムをオンライン(ASP)で構築するようです。

他にも、日本語で携帯情報端末に話しかけると英語で翻訳した内容がしゃべり出されるなど、お~と思わされるような技術でした。

音声認識ソフトという核がしっかりしているからこそできるのでしょうが、自分たちの技術をいかにしてビジネスに結びつけるかというアントレプレナーならではの発想と行動力を感じた講演でした。技術とビジネスが結びつかないとやっていておもしろくないですものね。

まだまだ音声認識ソフトは進化していくのでしょうが、チューリングテストにパスする人工知能が生まれる日も近いのでしょうか。そんな人工知能に、漫才の一つでもしてもらいたいものです。

以下のソフトは万人向けに作られているので、特化したアプリケーションのものよりは認識率は低いと思われますが、ご紹介します。



2010/10/25

Google PageRankの数理

大学の生協でGoogle PageRankの数理という本を購入しました。共立出版からハードカバーで出版されています。そこいらのビジネス本とは全然違う、数理のにおいがぷんぷんする良書です。

この本はGoogleのページの順位づけがどのような理論に基づいて成されているのかを大学で線形代数を教えている情報科学の教授が書いた本です。webページのリンク構造を線形代数(行列)で表し、ページのランク付けを線形代数の固有値問題に落とし込んでいる(途中略)ところが実に爽快です。大学の学部で線形代数や統計確率の抽象的な講義を受けてもそれがどのように実社会に役に立つのかはなかなかわからないものです。

しかしこの本では、線形代数でGoogle方程式を記述しそれを解くことでページのランク付けを行うという明快なアウトプットがあります。大学2年か3年生くらいの数学をベースにしているので、是非読んでみてください。



2010/10/24

ボード設計者のための分布定数回路のすべて

ボード設計者のための分布定数回路のすべて 碓井有三著(自費出版)
http://home.wondernet.ne.jp/~usuiy/book/book.htm
という本を紹介させていただきます。

この本は電気回路を基板に組み付けるための設計者が理解しておかなければならない
反射やクロストークの説明が成されています。特徴的なのは、分布定数系の偏微分方程式をラプラス変換によって常微分方程式に変換してから解いているところでしょうか。実に明快で読みやすい本です。私のような電気が専門ではない人間にとっては、丁寧に書かれているこの本で色々と勉強させていただいております。特にだ9章のギガビット転送の線路損失の顕在化とのころが参考になりました。

ホームベーカリー

購入したホームベーカリーが金曜日(10月22日)に家に届きました。私は学生時代にパン屋に修行に行ったりと、以前からパン作りに興味があったので、久しぶりに昔のことを思い出しながら、この週末は、パン作りに励みました。ちょうど両親が京都まで来てくれていたので、できたてのパンを振る舞うこともできました。パン屋さんのパンが簡単に作れて両親も好評でした。

ところで、パンって発泡現象ですよね。
イーストから出てきた炭酸ガスが気泡になって膨らむわけで、小麦粉は熱による架橋反応を起こして、最終的な気泡の形状や連通率が決まるはず。
そういえば、フランスにはパンの3次元発泡シミュレーションをやっている人がいたなぁ。パンを食べながら発泡のことを考えると、日頃の研究の大変さを忘れますね。

パンには色々なバリエーションがあります。
小麦粉だけでも、スーパーでふつうに売っている日清製粉のものや、
米国やカナダ産のゴールデンヨットという超強力粉や、北海道産の
春豊や春よこいなど使う小麦粉によってもふくらみ方やおいしさが違います。
バターの種類や、レーズンやクルミを入れてもいいですね。
こういう食材が手にとって買える店が京都伊勢丹の地下2Fにできました。
富沢商店http://www.tomizawa.co.jp/
便利ですよ。

うちで購入しましたホームベーカリーです。初めてでもとってもおいしくできるので、
パン好きの人は気に入ること間違いなし。
 


これからは食べ物関係の内容も入れていきますね。

2010/10/07

ご聴講のお礼

本日、関西TLOの技術交流クラブにて講演させていただきました。

講演タイトル Over 1 Gbps時代の多孔型低誘電率膜の開発
講演内容 
携帯電話やテレビなどは今後もますます高性能化が進むと考えられ、短時間に多くの情報を処理したり表示したりできるようになる。携帯電話やテレビの中では、高性能化に伴い器内に流れる信号のビットレートが増加する。このビットレートの増加を陰で支えている材料が、エレクトロニクス用低誘電率材料である。本公演では、次世代の低誘電率材料として注目されている多孔型フレキシブル低誘電材料について、最新のプロセスとその用途展開について説明する。

多くの方々にご参集いただきまして誠にありがとうございました。今後とも研究を続けて参りますので、どうぞよろしくお願いします。

紫外線硬化樹脂の実時間解析

紫外線硬化樹脂の実時間解析法のうち小生の研究チームが得意としている測定方法についてまとめました。

紫外線硬化樹脂の実時間解析法
測定法 膜厚 温度 測定量 応答性・時間分解
Real time FT-IR 10 um 非等温 C=Cの吸光度 速い 30 ms
Real time FT-NIR 5 mm - 0.1 mm 非等温 C=Cの吸光度 速い 60 ms
Photo DSC 0.1 mm 等温 発熱速度 遅い 0.1 s
Photo rheometer 0.1 mm - 1 mm 非等温 弾性率、粘性率 やや速い


これらの測定方法を駆使して、4つの測定法の結果を再現可能な統合的な反応拡散硬化モデルの構築について研究しています。このようなモデルを作ることで、実際の硬化条件に近いシミュレーションを行うことが可能になります。

特に、以下のことが明らかになれば紫外線硬化樹脂の適用範囲はさらに広がると思います。
  • 硬化メカニズムの解析(収縮、発熱)
  • 材料探索の支援(多成分系での精度よいモデル)
  • 残留モノマーの低減
  • 硬化物の力学物性とネットワーク構造の関係

2010/10/05

ピーク分離プログラム

real time FT-IRで紫外線硬化樹脂の反応速度を解析しています。紫外線硬化樹脂は溶媒を含まないため試料のモル吸光係数が高く、アクリレートのピークがしっかりとベースラインまで分離された状態で測定を開始することは容易ではありません。例えば、下の図のようにアクリレートのC=Cに由来する1630 cm-1のピークは、アミドやカルボニルのC=Oとカップリングしてしまいます。このようなときに、ピーク分離を行うとスペクトルの解析が容易になります。

そこでreal time FT-IRで測定された大量のデータを一括して自動的にピーク分離を行うプログラムを作成しました。このプログラムは、複数のガウス関数でピークやショルダーを表して、Levenberg–Marquardt法で測定されたスペクトル形状にもっとも合うように各ピークのピーク位置、高さ、幅を決めるプログラムです。

図 ピーク分離プログラムで分離されたピークとその重ね合わせによって得られたスペクトル


実行環境はMATLAB7.1でOptimization Toolboxのlsqcurvefitという関数が必要です。また、入力ファイルはBruker Optics VERTEX 70のOPUSが出力したスペクトルのdptフォーマットです。

dptフォーマットは、
波数1 吸光度(時刻0) 吸光度(時刻1)  ....
波数2 吸光度(時刻0) 吸光度(時刻1)  ....
...
です。