2012/12/09

書評:採用基準(その2)


理系の就職についてもう少しだけ引用します。

理系の人たちがもっとリーダーシップを発揮していけば、日本はもっとよくなるのにと考えさせられました。著者は戦略系コンサルティングファームのマッキンゼーにいたそうですが、マッキンゼーなどの外資系は、リーダーシップのある理系研究者を欲しがっているようです。

やや理系信望が強すぎると思うところもありますが、それは文系が劣化しているからなのかもしれません。外資系コンサルに限らず、理系の学生やポスドクはリーダーシップを発揮しなくてはならない場面が数多くあります。その経験を就職活動に生かしたいものです。

以下、理系の研究者や博士号取得者についての記述です。


第1章 誤解される採用基準


p.50
 
 構築型の能力とは、「独自性があり、実現した時のインパクトが極めて大きな仮説を立てる能力」(仮説構築力)であり、「ゼロから、新しい提案の全体像を描く構想力や設計力」です。私は日本人にこういった能力を持つ人が少ないと言っているわけではありません。日本ではこういった能力が、
「頭がいい」ことをイメージさせる要素として認識されていないと言っているのです。
 
 より正確に言えば、日本でそれらの能力が高く評価されているのは、アカデミックな世界だけです。たとえば、日本に多数存在する、理系分野で世界的に評価されている研究者の方は、すぐれた仮説構築力を持っているからこそ、卓越した成果が出せているはずです。研究者にとってユニークな仮説を作る能力が決定的に重要であることは、多くの人が理解していることでしょう。
p.55
 (ある能力に突出した人材:スパイク型人材が必要とされているが、そういう人材は日本社会では評価されないという記述の後)
 ただこの点に関しもて、アカデミックな世界だけは日本でもスパイク型の人材が評価されています。研究者はごく狭い分野をだれよりも深く極める必要があり、すべての分野について平均的に知識やスキルが求められているわけではありません。専門の研究分野で高い成果を上げている人には、バランス型の優等生ではなく、得意分野に偏りのあるスパイク型の人材が多いはずです。
 実はマッキンゼーは世界でも日本でも、博士号を持つ元研究者を積極的にコンサルタントとして採用しているのですが、それは仮説構築力など構築型の能力を持つ人材が多いことと併せ、スパイク型の人材が多いことも、その理由だと思います。
誤解その3:分析が得意な人を求めているという誤解
誤解その4:優等生を求めているという誤解

第2章 採用したいのは将来のリーダー


p.80
 経済学部の学生なら、さまざまな活動に参加して「これだけのリーダーシップ体験をつみました!」とアピールできるでしょうが、研究に集中する理系の大学院生には、そういった余裕がありません。後輩の研究指導をし、学会活動を行う彼らのリーダー体験が少ないわけではないのですが、彼ら自身がそれをリーダーシップだと認識していないことも多く、履歴書上ではまったくアピールされていません。

第6章 リーダー不足に関する認識不足


p.176
 また高い専門性も、リーダーシップを併せ持ってこそ評価される資質です。もちろんどの国にも、たった一人でラボにこもり、画期的な研究成果を出し続ける研究者はいるのでしょう。しかし、大半の研究者は研究資金を得るために、「自分の研究がいかに意義深いか」とアピールするマーケティング活動を求められるし、時には、企業との共同プロジェクトを率いることを求められます。
 日本では何年も前からオーバードクター問題(博士号取得者が正規雇用のポジションにつけない問題)が発生していますが、これもリーダーシップ不足がその本質でしょう。
(中略)
 自分で研究内容をアピールしてスポンサーから資金を調達し、共同研究の可能性を探って民間企業と交渉し、時には海外の研究者も含め、一定規模以上のプロジェクトを率いてきた実績のある人なら、ぜひ雇いたいと考える民間企業もあるでしょう。実際にマッキンゼーを含め外資系企業は、そういったリーダーシップのある博士号取得者を積極的に採用しています。