プラスチックは金属と比べて柔軟性があり、軽く、安価であるため、われわれの身の回りにはたくさんのプラスチック製品が使われています。プラスチック製品を製造する民間企業は日本に2,450社(売上高5億円以上、(株)SPIインフォメーション調べ)あり、これらの会社は自動車や家電製品、日用品などのサプライチェーンを担っており、大変すそ野の広い産業分野です。日本国内の経済規模はおよそ4兆円(経済産業省調べ)です。
プラスチック製品を作る技術をプラスチック成形加工(技術)といいます。私はこのプラスチック成形加工という技術分野を化学プラントの設計・運転・保守のために体系化された化学工学の知識を活かして研究しています。化学工学では、化学反応、物質の流れ、熱の伝わりなどを体系的に扱い、数学モデルを構築し、実験とシミュレーションにより、プラントの挙動を予測したり、稼働中のプラントのトラブルを解決したりして、経済合理性にかなった設計・運転・保守を可能にしています。
私はこの化学工学の手法をプラスチック成形加工に展開し、成形現場でプラスチック(樹脂)を重合しながら成形する現場重合の一分野として紫外線(UV)硬化樹脂の硬化過程の解析と様々なアプリケーションをプロセスエンジニアリングの観点から研究しています。
例えば、UV硬化型のロールツーロールナノインプリント、紫外線を使った新規多孔ポリイミドの作製法とフレキシブル低誘電率膜への応用、UV硬化型の3Dプリンタの解析、爪に塗るUV硬化樹脂であるジェルネイルの安全性評価などを研究しています。また、二軸押出機による樹脂の改質やコンパウンディングに紫外線で分解する開始剤を使い、これまでにない機能樹脂の開発やサイクリックオリゴマーの開環重合などによる繊維強化プラスチックの開発も行っています。
基礎研究では、液体のモノマーが重合して固体になる硬化過程の速度論的な解析をリアルタイムFT-IR(フーリエ変換型赤外分光法)や粘弾性測定装置を駆使して、UV硬化により生成する三次元網目構造の数マクロメートルスケールの密度ゆらぎが硬化物の物性や、相分離(発泡)速度に与える影響を研究しています。これを発展させると、石炭中からのコークスの生成過程、火山の噴火、分岐プラスチックの発泡成形、パンやスポンジケーキの製造過程などの発泡現象を体系的に理解できるようになります。
基礎研究からアプリケーションまで、高分子と光(紫外線)を基軸に付加価値の高いプラスチック成形加工の新たな地平を切り開いています。